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「決断疲れ」の正体:なぜ一流の経営者やアスリートは「脳疲労」の管理を最優先するのか

2025年11月、日本列島は本格的な秋の深まりと共に、ビジネスとスポーツの両面で「結果」が問われる熱い季節を迎えています。

 

経済ニュースを賑わせているのは、主要企業の「決算発表」です。ソフトバンクグループやホンダ、メルカリといった名だたる企業が次々と業績を発表し、その数字一つひとつが市場の注目を集めています。経営陣は、投資家やメディアに対し、厳しいプレッシャーの中で未来の戦略と数字の根拠を説明する責任を負っています。

 

かたやスポーツの世界では、野球の「侍ジャパン」の国際試合や、MLB(メジャーリーグベースボール)への挑戦を表明する選手の動向が、ファンの期待を一身に背負っています。

 

「数百億円規模の投資判断」を下す経営者。 「満員の観客が見守る中、結果を出さなければならない」アスリート。

 

彼らに共通するものは何でしょうか。それは、常人には計り知れないほどの「プレッシャー」の中で、一瞬の「決断」と「最高のパフォーマンス」を同時に求められ続ける、という極限の状態です。

 

私たちはこれまで、こうした大舞台での成功を「強い精神力」や「揺るぎない信念」といった、ある種の精神論で語りがちでした。しかし、脳科学の知見が進むにつれ、その成功の裏には、精神論だけでは説明できない、極めて合理的な「脳の管理術」が存在することが明らかになってきました。

 

本日は、この「プレッシャー」と「決断」が脳にどのような影響を与えるのか、そして、なぜ現代のビジネスパーソンにとって「脳疲労」の管理が必須スキルとなりつつあるのか、深く掘り下げてみたいと思います。

 


 

第1章:私たちは毎日「決断疲れ」に蝕まれている

 

皆様は、「決断疲れ(Decision Fatigue)」という言葉をご存知でしょうか。

 

これは、心理学者のロイ・バウマイスター氏が提唱した概念で、「人は決断を繰り返すほど、脳の認知リソースを消費し、その後の決断の質が低下していく」という現象を指します。

 

私たちの脳、特に思考や理性を司る「前頭前野」は、まるでスマートフォンのバッテリーのように、使えるエネルギー(認知リソース)に限りがあります。そして、そのバッテリーを最も激しく消費する行為こそが「決断」なのです。

 

「朝、どの服を着るか?」 「ランチはAセットかBセットか?」 「どのメールから返信するか?」

 

これら一つひとつは些細な決断です。しかし、現代社会に生きる私たちは、朝起きてから眠るまで、一説には1日に数万回とも言われる膨大な数の「選択」に迫られています。特にスマートフォンは、情報過多の元凶であり、私たちの脳に絶え間ない決断を強いてきます。

 

この小さな決断の積み重ねが、知らず知らずのうちに前頭前野のバッテリーを消耗させ、夕方になる頃には脳が「ガス欠」状態に陥る。これが「決断疲れ」の正体です。

 

決断疲れを起こした脳は、どうなるでしょうか。 合理的な思考(前頭前野)が停止し、より本能的・感情的な判断(扁桃体)が優位になります。その結果、「考えるのが面倒」になり、判断を先送りにしたり、短絡的な選択(例えば、健康に悪いとわかっていてもジャンクフードを衝動食いする)に走ったりしてしまうのです。

 

故スティーブ・ジョブズ氏が、毎日同じ黒のタートルネックとジーンズを着用していた逸話は有名です。これは、服を選ぶという「小さな決断」を日常から排除し、その分の認知リソースを、アップルの未来を左右する「大きな決断」に集中させるための、極めて合理的な脳の管理術でした。

 

私たち一般人でさえそうなのですから、日々、国家予算にも匹敵するような金額を動かし、数千人、数万人の従業員の生活を背負う経営者たちの「決断」の重さは、いかほどでしょうか。彼らの脳が、いかに「決断疲れ」と隣り合わせの危険な状態にあるか、想像に難くありません。

 


 

第2章:「プレッシャー」が脳のパフォーマンスを物理的に奪う

 

「決断疲れ」に加えて、一流のビジネスパーソンやアスリートが直面するもう一つの強敵が「プレッシャー」です。

 

「このプレゼンで失敗したら、プロジェクトが止まる」 「この一球で、勝敗が決まる」

 

こうした極度の緊張状態において、私たちの脳内では何が起こっているのでしょうか。 まず、身体は「闘争か逃走か」モードに入り、ストレスホルモンである「コルチゾール」が大量に分泌されます。適度なコルチゾールはアドレナリンと共に集中力を高め、パフォーマンスを一時的に向上させます。

 

しかし、問題は、このプレッシャーが「慢性的」に続くことです。

 

過剰なコルチゾールが脳内に溢れ続けると、脳は深刻なダメージを受けます。 最も影響を受けるのが、先ほど登場した「前頭前野」と、記憶を司る「海馬」です。

 

慢性的なストレスは、前頭前野の機能を文字通り「麻痺」させます。高度な論理的思考、客観的な分析、長期的な視点での計画といった、ビジネスやスポーツにおいて最も重要な能力が著しく低下するのです。

 

練習では完璧にできたことが、本番のプレッシャーの中で頭が真っ白になってできなくなる。重要な会議で、準備してきたことの半分も話せなくなる。 これは「気合が足りない」のではなく、コルチゾールによって前頭前野がハイジャックされ、脳が正常に機能しなくなった結果です。

 

この状態こそ、私たちが呼ぶ「脳疲労」の深刻な段階の一つです。 脳が疲弊し、ストレスホルモンに汚染され、本来持っているはずのポテンシャルが全く発揮できなくなっている状態。プレッシャーにさらされ続ける現代のリーダーたちは、自覚のないまま、この危険な「脳疲労」状態に陥っている可能性が非常に高いのです。

 


 

第3章:決算発表と侍ジャパン —「脳疲労」との戦い

 

今まさに、この「決断疲れ」と「プレッシャーによる脳疲労」という二つの強敵と、最前線で戦っている人々がいます。

 

それが、2025年11月、決算発表の渦中にいる経営陣であり、国の期待を背負う侍ジャパンの選手たちです。

 

例えば、ソフトバンクグループの決算発表を想像してみてください。孫正義氏をはじめとする経営陣は、世界中の投資家という厳しい目に対し、AI戦略の未来や、兆円単位の投資の是非を、合理的に説明しなければなりません。そこには、一瞬の気の緩みも、感情的な反応も許されません。 彼らは、日々の膨大な「決断疲れ」に加え、決算発表という数日間(あるいは数週間)にわたる極度の「プレッシャー」にさらされます。

 

この状態で、もし「脳疲労」の管理を怠っていたらどうなるでしょうか。 前頭前野の機能が低下した脳では、投資家の鋭い質問の意図を正確に読み取れず、不適切な回答をして市場の信頼を失うかもしれません。あるいは、短期的な数字に気を取られ、会社の10年後、20年後を見据えた長期的なビジョンを語れなくなるかもしれません。

 

侍ジャパンの選手も同じです。 技術や体力は世界トップレベルであっても、国際試合という独特のプレッシャーの中で「脳疲労」がピークに達すれば、前頭前野の働きが鈍り、一瞬の判断ミス(例えば、投球コースや守備位置の判断)につながります。それが、勝敗を分ける「たった一つのエラー」になるのです。

 

だからこそ、真に一流と呼ばれる人々は、「才能」や「練習量」の上で、「いかに自分の脳をベストコンディションに保つか」という「脳疲労マネジメント」に最大の投資をしています。 彼らにとって、脳のコンディション管理は、オプションではなく、勝負の前提となる必須スキルなのです。

 


 

第4章:脳のパフォーマンスを取り戻す、最も重要な習慣

 

では、この深刻な「決断疲れ」や「脳疲労」から回復し、脳のパフォーマンスを最大化するために、私たちは何をすべきでしょうか。

それは、精神論で「もっと頑張る」ことではありません。むしろ、その逆です。

 

1. 決断の総量を減らす(自動化) 前述のジョブズ氏のように、日常生活における「どうでもいい決断」を徹底的に減らすことが有効です。 「服はパターン化する」「食事はルーティン化する」「仕事は午前中の脳がフレッシュなうちに、重要なものから片付ける」。これらはすべて、前頭前野のバッテリーを温存するための戦略です。

 

2. 脳の「ゴミ掃除」を行う(睡眠) 脳疲労の回復において、睡眠に勝る薬はありません。私たちが眠っている間、脳内では「グリンパティックシステム」が働き、日中の活動で蓄積した「脳の老廃物」を洗い流します。睡眠不足は、脳内にゴミを溜め込む行為であり、パフォーマンス低下に直結します。

 

3. 「何もしない」をスケジュールする(DMNの活用) 現代人は、脳を「使いすぎ」ています。常に情報をインプットし、タスクに追われていると、脳は休まる暇がありません。 しかし、脳には「ぼーっとしている」時にこそ活発になる「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という機能があります。このDMNは、記憶を整理・統合し、新しいアイデアを生み出す「創造性」の源泉です。 意識的にスマホから離れ、散歩をしたり、瞑想をしたりする「余白の時間」こそが、脳疲労をリセットし、新たなパフォーマンスを生み出す鍵となります。

 


 

結論:あなたの資産は「脳」である

 

2025年11月、決算というプレッシャーの中で未来を語る経営者も、大一番に挑むアスリートも、そして日々の仕事や生活の中で無数の決断に迫られる私たちも、使っている「脳」は同じ一つのものです。

 

「最近、集中力が続かない」 「大事な場面で、良いアイデアが浮かばない」 「夕方になると、何も考える気力が起きない」

 

もしそう感じているなら、それはあなたの能力や意欲の問題ではなく、単に「脳疲労」が蓄積し、「決断疲れ」を起こしているサインかもしれません。

 

これからの時代、ビジネスパーソンにとって最も重要な資産は、知識や経験以上に、その土台となる「健康な脳」そのものです。 自らの脳の状態を客観的に知り、適切に休息させ、そのポテンシャルを最大限に引き出す「脳の管理術」こそが、プレッシャーフルな現代社会を生き抜くための最強のスキルと言えるのではないでしょうか。